ゴボウ
塔島ひろみ

青空とゴボウ
ピンと直立し銃のように天に向いた
自転車は風を切って走っていく
ゴボウも風を切って走っていく
ゴボウの作る長い影も自転車と一緒に走っていく
ゴボウの知らない光の世界を
自転車が走る
後ろカゴがガタガタ揺れる
ゴボウが揺れる
銃みたいだったゴボウは次第に傾いて
少しプランプランとした感じになって
自転車は歩道からゴトンと車道におりたり
男の子の自転車とギリギリですれちがったり
青空とゴボウ
クリーム色のお寺の壁の横でスピードをあげる
そしてゴボウはカゴから落ちた
ゴボウはそのとき
私の名前を呼ばなかった

青空とゴボウ
ゴボウの上には秋晴れの空
自衛隊のヘリコプターが飛んでいた
自衛隊のヘリコプターは ゴボウの上を飛んでいった
ゴボウが落ちていたけど 救わなかった
私はゴボウのいない自転車をこぐ
少し汗をかいて マスクをはずす
ゴボウの見ている青空を
私はスシローの第2駐車場の開けたところで 何となく見た
自衛隊のヘリコプターが飛んでいた
木更津に行くのだ
飛んでいった
私はゴボウの名前を呼ばなかった
ゴボウの名前を知らなかった
ゴボウを思い出しもなかった

ゴボウには泥がついていた
袋から土が少し道にこぼれた
それはアスファルトで舗装された道だった
ゴボウには固かったけど
土がゴボウを包んでいた
私は自転車をとめて家のドアをあける
いろいろ買ったから
私はゴボウを思い出さなかった
ゴボウはなくてもよかった
困らなかった
80円だった
ゴボウを食べなくても悲しくなかった

ゴボウは私の名を呼ばなかった
私の名前を知らなかった
真っ黒の土に守られながら
初めてみる青空
初めてこうして寝そべって
どうすることもできない青空の下で
どうしようもない青空の下で
まだ80円の値札がついた袋に入って
青空が次第に赤みを増し
それからヒンヤリとしてそして暗くなっていくのを
銃のように見つめていた