その日その日で入っているものが違うという
「気まぐれパフェ」というのを線路沿いのケーキ屋で買った
少し歩き シャッターの閉まった居酒屋の前で紙の袋をあけると、長いスプーンも入っている
パフェを取りだし蓋をあける
苺と、オレンジと、キウイが生クリームの上に乗っている
その場で立ったまま パフェを食べる
ゼラチンに包まれた苺を食べる
口の端に生クリームがくっついた気がする
その下にはブルーベリーのカステラがあった
狭い一本道でリュックをしょって立ったままパフェを食べる女を
自転車のおじさんが見ていった
メガネをかけた中学生が見ていった
豪勢なパフェは何層にもなっていていつまでも終わらない
パトロールの警官が見ていった
ボロボロと入っているクランチを落とすと
すかさず鳩がやってきて、2羽3羽と集まり 私が次を落とすのを待っている
苺ジャム、それからふわふわのスポンジ生地
通る人のおおかたは鳩と逆で、私をちら見して避けるように通っていく
だから私が食べているのが「気まぐれパフェ」とは知らないだろう
「気まぐれパフェ」の中身も知らないだろう
電車が通る 駅が近くスピードが出ていないので乗客が見えるが
私を見てはいなかった
大きな箱ごと運ばれていく 消えていく
一本道はずっと続いて、その先のここから見えないところに
少し横に入ったところに
私の家がある
その隣りには隣りの人が住む家がある
隣りと隣りに挟まれて 私の家には私が住み 家族が住み 冷蔵庫があり
その中にはミルクティーが冷やしてあった
私はそこへ帰るだろうか
居酒屋のシャッターの前で
一人で489円もするゴージャスなパフェを食べる 食べ続ける
最後にチョコレートが出てくる
特急が通る
赤ん坊が泣いている
道が泣いている
電車が泣いている
空が泣いている
私は空のカップとプラスチックのスプーンを持って、居酒屋のシャッターの前で
気まぐれパフェが飲みこまれた腹と 乾いた喉を抱え 立つ
私はこれからどうするだろうか
誰も考えてはくれなかった
私はこれからどうしたらいいのか
誰も教えてはくれなかった
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